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8月8日に開幕し、24日まで熱戦が繰り広げられた北京オリンピックに私も飛び込み競技解説者として参加してきました。9日出発で24日に帰国という長い遠征。ドキドキワクワクした2週間でした。
私の仕事は18日に行われた男子飛板予選からでしたが、10日からシンクロダイビング決勝が始まっていたので練習見学と試合見学のために早く北京入りしたのでした。
こんなことをいうのは何なのですが、決められた日程より1週間早く北京入りした分は延泊ということで実は自費。これまでのオリンピックの3倍以上という驚きの値段には参りましたが、かなりの覚悟をして北京に行ったのでした。
まず空港に着いて驚いたのは空気のきれいさ。選手時代に何度か中国へは遠征していましたがいつも空気や道端、公共の場などが汚れていて参っていました。ですが今回は工場などすべて閉めてあり、町にあふれていた自転車などは1台もなく、オリンピックだというのに人も少ない。国を挙げてかなりがんばっているんだなという印象でした。
それからオリンピックが行われる会場の豪華なこと。有名なメインスタジアム“通称・鳥の巣”のすぐ横にあった水泳の会場“ウォーターキューブ”の素晴らしいこと! 七変化する外の壁を私はほかの観客と一緒になって写真を撮りまくりました。
はやる気持ちを抑えてプールに入ると室内なのに巨大な空間に度肝を抜かれました。そしてそびえ立つ飛び込み台を見つけて大興奮! 4年ぶりのこの空気、これがいいんだよ!と思いながらただひたすら選手たちの練習を食い入るように見学しました。
練習見学初日は選手がどこの国の誰だか理解するのに必死でした。個人資料をパラパラしながらだんだん目が慣れてくると、「この選手は4年前にはもっと小さかったのに…」とか、「この選手はびっくりするくらい上手になったなあ」とここ数年の成長が見てとれ、毎日感激の嵐でした。オリンピックにこうした形で参加できる幸せを噛みしめ一日一日を過ごしたのでした。
大会前半はシンクロ4種が行われました。シンクロは今大会から男子は6種目、女子は5種目。練習を見る限り、参加する8カ国の選手らの演技は甲乙つけがたく、どの国もメダルのチャンスがある! 日本も必死でシンクロに取り組めば、この先個人種目よりもメダルに近いはず。でも、演技内容はといえば難易率の高い種目ばかりでそれを高い確率で決めてきます。今の日本を考えると個人がやっとこさ高難易度の種目を飛び始め、まだシンクロさせるレベルではない…。きつい言い方だがこれが今の現実です。
特に目についたのはオーストラリア、イギリス、ドイツの選手。オーストラリアは2000年シドニーオリンピックに向けて長期の強化体制を整え、シドニー大会のシンクロでメダルを獲得するという成績を出しました。快進撃はそれだけにとどまらず、シドニー大会後もさらに強化体制を頑丈なものにし、ナショナルチーム制、海外からのコーチ招へい、プロコーチの導入とますます勢いに乗ります。2004年のアテネ大会では女子高飛込みで金メダルを獲得、さらに今大会では地元中国の飛込み競技全8種目制覇を阻止し、最後の男子高飛込みでマシュー・ミッチャムが金メダルを奪取して注目をあびたのです。
私の選手時代はオーストラリアの選手のレベルというと日本と同じくらいか下だったと思います。それが10年でここまで伸びてきたのは、確実に国ぐるみでの強化体制をしっかり行ったということ、それに尽きるでしょう。中国からコーチを呼び、選手強化体制をがらりと変えていく国は多くなっています。プールサイドを見るとかなりの数の中国人コーチが世界中にちらばっている様子を見ることができます。
イギリスは今大会多くの選手が個人種目でファイナルへと進みました。これは4年後のロンドンオリンピックに向けて国の強化体制が整い、それが効果を出し始めているということ。イギリスのチームリーダーは元オーストラリアのオリンピック選手。そしてヘッドコーチは中国から来たコーチです。その下にいるイギリス各地で指導にあたっているコーチ陣はヨーロッパ各地から呼ばれ、プロコーチとして選手強化にあたっているそうです。ほんとうに4年後が楽しみ。中でも今大会とても有名になったトーマス・デイリー選手は14歳になったばかり。大人顔負けの種目を飛び、今大会男子高飛び込みで7位に入賞しました。
ドイツは今回3人も控えの選手を連れてきました。試合直前に出場選手を差し替え、調子のいい選手が試合に出場するという作戦をとってきました。もちろん控えの選手は全員昨年の世界水泳と今春のワールドカップで出場権を得た選手たち。北京まで来て試合に出られない選手が3人もいるのは酷なようですが、国として最高の結果を求めるゆえのやり方なのだと思いました。その結果シンクロ2種目でメダルを獲得したのです。
結果をだしている国は中国からのコーチだけにこだわらず、いろんなことをしています。例えばドイツとロシアは体操競技と密着して強化にあたっています。強くなったメキシコは中国人コーチ以外にロシアからもコーチを招へい。オーストラリアはヘッドクラスのコーチが複数で選手がコーチを選べる。共通しているのは、強くなり結果をだしている国はその国のコーチ自体が頑張っていることを忘れてはいけないでしょう。例えばオーストラリアのマシュー・ミッチャム選手の207Cは完璧だけどあの飛び方は中国式ではありません。その国のいいところがちゃんと出ているのです。
日本からは男子飛板に寺内健、女子高飛びに中川真依が出場。2人ともファイナルに進出することができました。メダルを期待された寺内選手ですが、男子飛板に出場する選手らの練習を見て思ったことは、「307C、407Cを飛ばなければメダルはない」ということでした。今や男子飛板は「神の領域」ともいえるようなものすごいハイレベルな世界になってきました。みんな練習でも307C、407Cをバンバン飛んでしかもバシッと決めている。ただ飛ぶだけではないのです。皆が高難易率の種目をバシバシ決めているのを見たときに正直「寺内選手のメダル獲得は非常に難しい」と思いました。それは彼本人と馬淵コーチが一番わかっていたました。205B、305B、405Bを飛んでいては勝てない・・・。だから彼は決勝で307Cを入れてきたのです。305Bではメダルはない、ならば307Cに賭けるしかない・・・。メダルか12位か。それくらいの覚悟で臨んだ307Cだったのです。飛んだ結果、失敗してしまった。オリンピックに4大会連続出場の彼が順位としては一番よくない11位という結果。飛んだあとにコーチと握手をし、彼の背中をとんとんと優しくたたいた馬淵コーチの目には「長い間、よくがんばったね」というねぎらいと「よくがんばった、がんばったけど残念な結果だったね」という優しさが見えました。カメラに背を向けた寺内選手の背中が泣いていて、それを見て私は胸が詰まり、解説の仕事の途中なのにうまく言葉が出ませんでした。
本当によく頑張ってきたね・・・。彼の頑張りは試合の順位結果としては出せなかったけれど、金メダル級の頑張りだったと思います。翌日、ようやく私は寺内選手と話す機会ができ、彼が私に「(選手を)もう続けないと思います・・・。大分の国体が最後かな・・・」と言いました。「そうか、お疲れさんやったな・・・」としか答えられなかった私。その言葉の重みがドーンと響きました。でも次に彼が言ったのはこういう言葉。「でもね、正直言って今回の順位には納得する、しないなんて気持ちはまだまとまらないですけど、4回オリンピックに出て今回の大会が一番自分では『オリンピック』だな、これっていいなって感じながら納得しながら1本1本飛べたんです。そういった意味では一番いいオリンピックだったです。」と、こう笑顔で言ってくれたこの言葉がなんだか私にも救いになった気がしました。
4年後のロンドン大会には誰が日本代表で出場できるのでしょう。今の日本体育協会のやり方のままでは行く末が不安だという指導者は多いようです。そういった意味では2016年に東京でオリンピック開催が決まれば国に大きな希望が生まれるはず。今や日本の飛込みは世界に大きく水を開けられてしまいました。どうやったら世界と肩を並べて競える選手が育つのか・・・。日本の指導陣は常に頭を悩ませています。国の強化体制が他国ほどしっかりできておらず、各コーチにすべてゆだねられている現実をすぐに変えることは難しいでしょう。ならばしかたがない、個人個人がやるしかない、これが今の日本の飛込みの現実です。
最近、私と主人とでよく話すことがあります。それは競泳が力をつけてきたのは選手強化体制ができつつあることもありますが、競泳の大会ではお客さんが会場を埋め尽くしているという現実です。有料・無料にもかかわらず観客席がいっぱいになる。これは競泳関係者がそういう努力を続けてきた結果です。多くの人に注目されている競技は成績も伸びていきます。では、飛込みはどうでしょうか。観客席をいっぱいにする努力をしているでしょうか。大会を宣伝してたくさんの人にアピールしているでしょうか。残念ながら答えは「ノー」でしょう。そこで私と主人が提案するのは(勝手な提案ですが)まずは「試合に参加する選手一人が10人の観客を呼ぼう!」ということ。たとえば今夏行われた全国ジュニアオリンピック大会ではだいたい70〜80名くらいの選手が参加しました。その選手1人が10名の観客を呼べれば観客性には700人のお客さんがはいることになります。「そんなこといったって開催地の近県の人はいいけれど、遠い人はどうするのよ」といわれるでしょう。だから絶対10人ではなく、10人を目指すということです。1人でもいいのです。おじいちゃんおばあちゃん、親戚、友達・・・。誰でもいいのです。まずは声をかけてみる、そこから始まると思うのです。
日本の飛込みが真剣に世界を見るならば、一人ひとりがばらばらな方向を見るのではなく、まずは自分たちにできることをコツコツ始めていくこと。
その中に「飛込みの試合の観客席をたくさんの人で埋め尽くすこと」というのは必要なことだと思います。注目を浴びるスター選手の出現を待っていてはいつまでたっても世界との差は縮まりません。すぐに行動を起こしていかねば仮に2016年の東京開催が決まったとしても今からではいい成績が出せるとは思えません。もっと本気に取り組む、たとえばプロコーチというのもいいかもしれません。日本には優秀なコーチがたくさんいますから。
北京大会はたくさんの感動だけではなく、日本に多くの課題をのこしてくれた大会でもあったように思います。この課題にいち早く真剣に取り組んだ選手とコーチが4年後8年後、そして12年後に笑っていられるのではないかと思うのですがどうでしょうか。
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